震災であらわになった人間性。ブライダルスタッフが振り返る「結婚式ってそんなに大事ですか?」

初めて体験した大きな揺れ。
これはただ事ではない、そう日本中が感じた2011年3月11日。
数十メートルの津波が街を飲み込み、家や車あらゆるものが流されて行く。
テレビ画面に写し出されるその映像は、衝撃的だった。
同時に、我が目を疑い現実として受け入れ難く感じていた。
今、結婚式する必要がどこにあるの?
東日本大震災の翌日は土曜日だった。
当時私は、人気の結婚式場でフリーランスのヘアメイクとして業務をしていた。
繁忙期の3月。
当然、翌日は挙式がマックスの件数で入っていた。
惨事の状況が少しずつあらわになると、業務連絡が絶え間なく入ってきた。
「10時挙式○○家○○家キャンセル」
「15時挙式△△家△△家延期」
取りあえず明日はみんなキャンセルだろう。
だって、電車動いてないし。明日動くの?液状化現象や地盤沈下のニュースも。
東北からのゲストは絶対、来られないし。
しかーし!
何故か私の担当のお客様の名前が出てこない。。。
夜遅くなり、電話が鳴った。
「○○家○○家は、挙式予定通り有りです」
「えっっっー!やるんですか?」
「そう。やりたいんだって。他は全部キャンセルだけどね。。。。」
担当プランナーも困惑。
当日、案の定ゲストは来られない人続出。
何とかご来場されても、大幅遅刻。
結局、予定の半数のゲストしか出席されなかった。
多くの電車が動いていないか、大幅に遅れていたり、徐行運転だったり。
式場近くに住んでいるお二人は、歩いて来られるものね。
だから、そこには考えが及ばなかったのかしら?
ね!
鉄道関係のお仕事をされていた、御新婦さま!
ときに結婚式って、周りが見えなくなる魔物だから仕方ないのかな。
消防士の仮面を被った新郎
地震による津波は最大遡上高40メートル以上にも上った。
各地で発生した巨大津波と、それに伴う津波火災。
被災地では、多くの消防隊員や消防団が、その貴重な命を落とした。
日を追うごとに被害の尋常ではない大きさや、むごさが露出してきた。
瓦礫の撤去や遺体の収容、避難所への誘導や、物資の配達。
混沌とした中では盗難も発生する。
地域のパトロールもしなければならない。
それら全てが、当時の消防士や団員の担当となっていた。
当然地域の人だけで足りるわけはない。
日本中の消防士が順次現場入りした。
それは、数か月にも亘る過酷な任務であっただろう。
そんななかでも、東京では、、、、
結婚式を挙げるカップルは結構いるもんだ。
まあ、身内に直接的な被害者がいないのであれば。
日本中が、悲しみの渦中にいる中だからこそ、明るい話題があってもいいかな。
だけどーーーー!
いたのだ。
消防士という職業に従事しているお客様が。
確かそのお客様の挙式日は、5月の上旬頃だったと、記憶している。
ご新婦のヘアメイクをしている中、聞こえてきたのだ。
「良かったよ~行かなくて済んで」
「東北行きを言われたんだけどさ、イヤだから断ったんだよ」
「だって式の1週間前だぜ。めんどくせーよ」
えっーーーー!
ご新郎!イヤって?めんどくせー?
そしてこんな言葉も聞こえてきた。
「上司にも『式を延期出来ないのか?』とか言われたんだけどよ」
「良かったよ。結婚式で」
延期、できますよ。料金は発生せずに。
ましてや日本の危機、人命に関わるお仕事が理由なんですから。
挙式には間に合わず、披露宴にギリギリに到着した同僚達。
東北で震災の被害者を救う為、必死に働いて現場から式場に直行したようだ。
顔は疲れ、少し薄汚れてはいたが、その勇ましい姿には尊敬!
貴方達のその働きで、救われた命や遺族の想いがたくさんあっただろう。
ご新郎、あなたは何で消防士になったのですか?
結婚式って、そんなに大事でしょうか?
一人、東京から逃げ出すのか!
地震から1時間後に起きたのは、巨大津波だけではない。
福島第一発電所のメルトダウンだ。
翌日の3月12日、15時36分には一号機、三号機が続いて白煙をあげた。
この水素爆発の映像は、世界中に衝撃を走らせた。
今も、多くの人の脳裏に焼き付けられている事と思う。
その日の20時50分より、随時避難指示が発令された。
現在も10万人以上の避難住民がおり、故郷に帰れる目途は立っていない。
放射性物質を伴う漏洩としては、世界最大規模の大惨事となってしまった。
この為、放射能の影響による多くの問題と、課題が今だ山積みである。
幸いにも、遠く離れたこの東京で暮らしている分には、被害は及ばない。
それでも!
心配性な人はいる。
4月、挙式を3日後に控えたお客様情報が入ってきた。
「○○家○○家 挙式中止」
「理由!新郎逃亡!」
へっ?!
新郎逃亡? どういう事?
『放射能が降り注いでいる東京には、コワくていられない』
ひとり、関西へ行ってしまったそうだ。。。
残された、ご新婦からのご連絡でした。
ご新婦さま!入籍前で良かったじゃないですか!
あなたを本当に、大事にしてくださる男性が他にいる!
神様からのメッセージですよね💗