あんな大人になりたくない。その願いは「心の病」となって返ってきた。

オンナの叫び

あんなおとなになりたくない。

幼稚園生の頃のこと。

B先生から、「A先生のお手伝いしてきて」と言われて、ほかの教室に向かったわたし。A先生はなんらかの作業をしていて、わたしはそれを手伝った。もう、なんの作業で、なにを手伝ったのか覚えていない。

A先生が、「先生は先に戻るから、それが終わったら教室に戻ってきてね」と去ってから、わたしは「おとなになにか頼られている」という嬉しさから黙々と作業を進め、「終わったよ!」と教室に戻った。すると、B先生が怖い顔で、「今までどこにいたの?」と言った。わけがわからず「A先生のお手伝い……」というと「A先生は美緒ちゃんに会ってないと言ってるよ」と言われた。えっ、と思ってA先生を見ると、意地悪なかおでわたしを見ていた。

あんなおとなになりたくない。

小学四年生のとき、わたしのクラスには自閉症の子がいた。結構、重度だったと思う。コミュニケーションはまずとれない。歌を歌っているか、絵を描いているか、わあっ!となってしまうと手元にあるものをなんでもかんでも投げつけてくる、授業中に教室から逃げ出す。担任の先生だけでは手に負えないから、と、その子専用のC先生がついていた。ある日、担任の先生が用事で給食の時間、いなくなることになった。C先生が代わりに給食を取り仕切る。生徒たちから、「今日くらい班じゃなくて好きな子と食べたい!」と声があがったが、C先生は「私は担任じゃないからそういうのは決められない」と。全員で文句を言った。給食くらい、好きな友だちと食べていいじゃないか。

すると、C先生が突然、わたしの腕を掴んだ。「職員室に連れていきます」

そしてわたしは、引きずられるように教室から出された。なぜわたしだけなのか、と聞くと

「あんたがいちばん堂々としてるから」

わけがわからなかった。

あんなおとなにはなりたくない。

小学五年生のとき、新しい男のD先生が赴任してきた。わたしのクラスの担任になったD先生は、最初はすごく人気者だった。毎週必ず一回はやるお楽しみ会。面白いおはなし。だけどある日、化けの皮が剥がれた。教室が混沌としてうるさかったとき。「俺はお前らみたいなバカの相手をするために働いているんじゃない、金のためだ」と怒鳴った。

そして、中学受験を考えていた私の家へ家庭訪問に来たとき、「行ける学校なんかあるのかな」と鼻でわらった。

あんなおとなにはなりたくない。

小学四年生の終わりか小学五年生の初めか、塾に通いだした。中学受験をするためだ。そこの塾長のE先生。算数の先生だった。わたしは「美緒は本が好きだから文系だね」と言われ育ったので(いま思えば、本が好きな理系もいる)、自分は理系の科目、算数はできないものと思い込んでいた。小学生の頃の思い込みとはすごいもので、ほんとうになにひとつ、理解できなかった。そんなわたしの机を、E先生は蹴った。「なんでこんなのもできねえんだよ」蹴られて、そんな言い方をされて、ますます算数が嫌いになり、解けなくて、また蹴られる。そのスパイラルだった。

あんなおとなになりたくない。

わたしの母親は、不幸自慢が多い。今日こんなことがあって、とはなすと、「それくらいならいいじゃん、こっちなんか」と始まる。なにか質問すると、1の質問に対して100の返事が返ってくる。

そして、暴力、暴言。決定的なのは、不倫をしていること。何歳になっても「おんな」でいたいという欲望が、気持ち悪かった。

あんなおとなになりたくない。

わたしの父親は、とにかく自分の意見に反することは否定してかかってくるタイプだった。そして、気に食わないことがあると暴力。

そのすべてをわたしは覚えていて、「あんなおとなになりたくない」といつしか思うようになっていた。

だから「マイペースな小野寺」を貫き続けた。わたしは誰のことも否定しない、必要以上に喋らない、嘘をつかない、理不尽なことを言わない、バカにしない、貶めない。

それが「わたし」が「わたし」を守る、許せる、唯一の術だった。

だけど、就職して。

「なんで意見を言わないの?」

「やる気ないの?」

「なにを考えてるの?」

「みんな小野寺さんが自分から発言してくれるのを待ってるよ」

「いつになったら自主的に動くの?」

わたしのそれまでは、打ち砕かれた。

べつに「いい子」でいようとしていたわけじゃない。「あんなおとなになりたくない」と思っていただけなのに。すべてのおとなを反面教師にしてきただけなのに。

わたしが守ってきた「わたし」という殻は、木っ端微塵に砕かれて、ある日起き上がれなくなった。

「鬱です」

あぁ、また増えた。そう思った。

元々、社交不安障害を患っている。

あんなおとなになりたくない、それだけの願いは、精神疾患となり自分に返ってきた。いらない。

もう息吸って吐くのがだるい。だるい。

人間なんてきらい。

人間なんてきらいだ。

子どもたちから見たら、わたしは「あんなおとなになりたくない」の対象に入るのだろうか。

わたしの一生をぐちゃぐちゃにした、すべての人間を憎む。

やはり、人間は憎むべき対象なのだ。

小野寺美緒

1月生まれ。本が好き、映画を観る要領で頭に文字を流す。 わたしのような、みっともないおとなでも生きていけるんだ、と思ってほしいと、頭の中のマーブル模様を文字...

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